三津の側に崩れるように近付

三津の側に崩れるように近付くとその体に覆いかぶさった。

 

 

「女子の顔をこんなんにして!!」

 

 

両手で痛々しい顔を優しく包むと,その頬に大粒の涙を落とした。

 

 

「ん?おたえさん?」【椰子油生髮】塗抹椰子油可以刺激生髮嗎? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 

 

流石に眠りから引き戻されて寝ぼけた声を出した。

 

 

「お三津ちゃん分かる?松やで。」

 

 

「お松さん?何で?ホンマに?」

 

 

三津は半信半疑にうっすら目を開いた。光と共に涙ぐむ幾松の顔が飛び込んできて驚きのあまり口をぱくぱく動かした。

 

 

「ホンマは連れ戻したろ思って来てんけど。こんな痛々しい体よう連れて帰らん。」

 

 

ぐずぐずと泣きながら幾松は三津の寝間着の袖を捲り腕をさすりながら痣を確認した。

 

 

「こんなんで帰ったらおじちゃんとおばちゃん倒れてまうかも。」

 

 

三津はいつもの様にへらっと笑って少し顔を歪めた。

 

 

「どこか痛むん?」

 

 

幾松の細くてしなやかな指が三津の頭を撫でた。

だけど三津は大丈夫とまた笑った。

大丈夫だから泣かないでと幾松の頬に手を伸ばした。

 

 

「もう少ししたら先生とおユキさんが来ると思うよ。」

 

 

「山南さんがお松さん入れてくれたんですか?後で土方さんに怒られちゃいますよ……。」

 

 

枕元に腰を下ろした山南を三津は心配そうに見上げた。

 

 

「大丈夫だよ。」

 

 

そう言って笑ってくれたけど大丈夫な訳がないのは分かっている。三津の眉尻は垂れ下がった。

 

 

「山南さん,先生いらっしゃいましたよ。」

 

 

隊士が遠慮がちに障子を開けて顔を覗かせた。

 

 

「おはようございます。具合はどうやろ?どこか痛むとこ増えたりしてへんかな?

おや,来客中でしたか。」

 

 

幾松と目があった先生は会釈をし,幾松も頭を下げてそれに応えた。

 

 

「お店のお客さんなんです。山南さんが入れてくれはったんです。」

 

 

幾松を怪しんではいないか,ちらっと視線だけを山南に向けるも特に変わった様子はない。

だけどこんなにも堂々と屯所内に幾松が居る事にはヒヤヒヤする。「山南さんは優しい方かも知らんけどそんな人ばっかりちゃうから早くうちに連れて行きたいです。」

 

 

ユキは口を尖らせて眉を顰めた。

 

 

「ユキさんの所?」

 

 

三津はきょとんとして先生とユキ,山南の顔を順番に見回した。

 

 

「お三津ちゃんのお世話を男所帯に任せられへんし,動かれへんのをいい事に夜這いなんてされたらたまったもんやありません。」

 

 

ユキの言葉が棘を増した。

山南は苦笑いを浮かべるだけで否定は出来なかった。

なるべく早くそう出来るように相談するとだけ約束した。

 

 

軽い診察を終えた先生とユキと共に幾松も帰ることにした。その帰り際にもう一度三津ににじり寄った。

 

 

「みんな心配してる。早く顔見て安心したいって。

また酷い目に遭わせてしまったって。落ち込んではる。だから早くただいまって言ってあげて。」

 

 

三津の頬に優しく触れて泣きそうな顔で微笑んだ。

その言葉が誰を表してるかはすぐに分かった。

三津も目を潤ませて頷いた。

 

 

……りたい。早く帰りたい……。」

 

 

掠れた声でそう言うのがやっとで,頬に触れる手をそっと掴んで唇を噛み締めた。

 

 

「ホンマやったらこの怪我負わせた本人に一言言ってやりたいとこやけど,そんなんして山南さんが八つ当たりされても敵わんから今日の所は帰ります。

お三津ちゃん次は連れて帰ったるからね。」

 

 

幾松は最後に三津の手を握ってから山南に深々と頭を下げて部屋を後にした。

そして屯所を出てから少し離れた場所で先生とユキを捕まえて三津の状態について詳しく聞き出した。

 

 

 

 

 

 

「山南さんありがとうございました。」

 

 

三津が目元を和らげると山南は少し俯いて首を横に振った。

 

 

「これぐらいしかしてあげられなくてごめんね。」

 

 

そこへ申し訳無さそうに隊士が顔を覗かせた。

 

 

「山南副長あの。」

 

 

その様子に山南はあぁ来たか…”と苦笑いを浮かべた。

 

 

「土方君が呼んでるんだね?すぐ行くよ。」

 

 

そう言うって立ち上がった山南の着物の裾を三津が掴んで心配そうな眼差しを向けた。

 

 

「大丈夫だよ。」

 

 

着物を掴んだ指を優しく解いて山南は部屋を出た。

その直後に土方の怒声が響き渡った。

それを聞いた三津はそっと床から抜けだした。

に、まずは驚愕が浮

に、まずは驚愕が浮かび、それがあっという間におどおどしたになった。

 

「ぽちは、ぽちはにうつすような病にかかっているのか?」

「はい?」

 

 俊春は、こんなときまで想像の斜め上をいきまくっている。またしても、理解不能な問いを投げつけられてしまった。

 

「しらなかった。気がつかなかった。Company Deregistraion ぽちは、みなに病をうつしてしまったかもしれぬのだな?」

「はああああ?ちょっ、なにをいってるんです、ぽち?なにもあなたが病なんていってませんよ」

「おぬし、やはりぽちをいじめているのであろう。はっきりと申したではないか。狂犬病だと」

「ちょっ……

 

 たしかにいった。そこまできて、やっとこのおかしなコントのネタに気がついてしまった。

 

「狂い犬」……

 

 たしかに狂犬だ。

 

「ぽち、それは誤解です。あなたではない。相棒です。狂犬病、ああ、いい方が悪いですね。「病い犬」とか?「狂い犬」ともいいましたっけ?ああ、だめじゃないか。「狂い犬」なんて、そのまんまだ。兎に角、ぽちのことではありません。相棒のことなんです」

 

 キレそうになってしまった。

 

「なんてかわいそうなことを。いくらなんでも、兼定が狂った犬にみえるか?」

「主計、勘吾さんの申すとおりだ。申し訳ないが、わたしのには狂っているのはおぬしのようにみえるのだが」

「たしかにな。主計。兼定をぽちにとられてからというもの、やっかんでぽちをいじめたり、兼定に理不尽なことを申したり、として最悪なことばかりしておるではないか」

「はあああああ?」

 

 蟻通につづいて斎藤、さらには副長まで。副長にいたっては、そんなこと思ってたんだって、びっくりというよりかはなんか悲しくなってきた。

 

「そんなんじゃありません」

 

 きっぱりと否定してみたが、みんなのじとーっとしたには、完璧に彼女あるいは妻をほかの男性にとられた気の毒すぎる彼氏、あるいは夫をみるような侮蔑的なものがこもっている。

 

 ダメだ。どれだけ否定しようが断言しようが、よけいに事態や立場を悪くするだけだ。

 

「降参します。おれが悪うございました」

 

 だから、そうそうにあきらめた。両掌をあげ、降参のポーズをとる。

 

「ですが、これはマジな話なんです。犬とか猫とか鼠とか、病をもっている動物にかまれたりなめられると、にもうつるんです。そうなると、たいてい死んでしまいます。相棒に兆候はまったくありませんが、万が一ということがあります」

 

 とはいえ、大切なことは理解してもらいたい。必死さが伝わったのであろう。副長をはじめ、最後までだまってきいてくれた。

 

「主計、案ずるな。大丈夫だ」

 

 俊春が立ち上がり、こちらにちかづいてきて掌をさしだしてきた。

 

「大丈夫?」

 

 その掌を握り、上下にぶんぶん振りながら問う。

 

「ぽちは、大丈夫」

「いや、だからあなたではありませんってば」

「兼定も大丈夫。病にはかかっておらぬし、かかることはない」

 

 俊春は、ささやき声でそういいきった。

 

 はい?なにを根拠に断言するのか?かれは、おれの説明を理解していないのか?

 

「わたしのときとはちがい、想定しうる病にたいする備えはできている」

「はああああ?おっしゃる意味がよくわかりません」

 

 またしても、グーグルさんのように応じてしまった。

 

「それに、掌を握るのはやめてくれぬか。得物をかえしてほしいだけだ」

「あ、すみません」

 

 さしだされた掌が握手の意味ではなかったことはわかった。

 が、『病にたいする備え』の意味は、まったくわからない。

 

 が、かれはおれの掌から自分の「村正」をとりあげると、さっさとはなれてしまった。 俊春はおれからはなれると、ちかくにある栃ノ木にちかづきそれをみあげた。

 かれの「お父さん犬」も、かれと同様木の上をみあげている。

 

 相棒の尻尾は、これでもかというほど上下左右に振られている。それは、相棒がめっちゃ興奮していることをあらわしている。

 

「がらにもなく、はずかしがることはありますまい。それに、もったいぶりすぎです。ったくもう、すぐに恰好をつけたがるのですから」

 

 俊春が栃ノ木に文句をいいはじめた。

 

 刹那、背後になにかを感じて……

 

「あいかわらず、主計はいじられ上手であるな。そのうえ、みなから愛されすぎている。心から安堵いたした」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいっ!」

 

 耳にささやかれたものだから、悲鳴をあげてしまった。もちろん、飛び上がるというアクションまでそえたのはいうまでもない。

 

 し、心臓がとまるかと思った。いやいや。実際、一瞬止まった気がする。

 

 おれの悲鳴に驚き、「豊玉」も「宗匠」も大鳥の馬も驚き、いなないている。もちろん、も、何人かは「ひいっ!」とか「うわっ!」とか叫んだようである。が、だれの叫び声だったかはわからない。

 

 ってか、おれの叫び声のほうがすごすぎて、よくきこえなかった。

 

 驚きすぎてなかなか立ち直れず、前傾姿勢で荒い息をついてしまっている。

 

 いったい、いまの叫び声は何デシベルになっただろう。自分でも声が裏返っていたのがわかった。かなりの高音域にたっしたであろう。ソプラノのオペラ歌手っぽくなっていたかもしれない。

 

 またしても、副長に「いいかげんにしやがれっ!」って雷を落とされる。

 

 なにゆえ悲鳴をあげてしまったのかなんてことは、すっかりふっ飛んでしまっている。

 そんなことより、いまから落ちる雷にしか意識が向いていない。

 

 よくよくかんがえてみれば、おれってばどれだけ副長のパワハラ、もとい副長のご機嫌を損ねることを怖れているんだ?そんなことをかんがえると、つくづく悲しくなってしまう。

 

 が、いつまで経っても、副長の雷が落ちてこない。しかも、いまは馬たちすら騒いでおらず、周囲は宇宙空間に放りだされたかのように無音である。

 

 やっとこさ、心臓も気分も落ち着いてきた。そこでおそるおそる姿勢を正し、周囲をみてみることにした。

 

 全員、おれをみつめている。その

を従えているように

を従えているように堂々たる姿である。 江戸に逃げるようにして戻り、故郷に立ち寄った際、泰助ら日野出身の子どもたちはお役御免にしたわけである。

 

 が、市村も田村も日野出身ではない。

 

 それでも、泰助の両親や後援者たちのおおくが、かれらの面倒をみるといってくれた。養子に、と名のりでてくれた人もいた。

 

 それを断ってまで、激光生髮帽 市村も田村もついてきたがった。そして、局長も副長も連れてきたかったのであろう。なんやかんやといいつつ、すべての子どもたちがいっきにいなくなるのは寂しくなる。

 

 ゆえに、二人はここにいる。

 

 じつは日野出身の子どもたちも、市村と田村同様ともにきたがった。

 泰助なんて母親に会った瞬間、抱きついていたし、ずっとべったりくっつういていた。

 ほかの子も、それぞれの家族にべったりだった。

 

 当然である。まだ小学校から中学に上がる年齢や中学生くらいの子たちばかりなのである。

 現代のように、思春期でどうのこうのというのもあまりなさそうだ。

 

 みな、家族に会ってすごくうれしそうだった。

 

 それでも、かれらもまた日野に残ることを拒否った。

 

 かれらも、立派な新撰組隊士なのだ。

 

 そのかれらを説得したのが双子である。それでやっと、かれらは泣く泣く残ることを了承した。

 

 いくらみずからの意思でついてきたとしても、やはり子どもを戦場に連れてゆくのはどうなんだろう。

 

 副長だけではない。おれもそうであるが、大人のだれもがそう懸念している。

 

 だが、そんな大人の懸念など、二人にとってありがた迷惑でしかないにちがいない。

 

「呼びたいように呼べ」

 

 副長は、おれが副長のことを副長と呼ぶことをぶっきらぼうに許可してくれた。

 

 それにしても、えらいまた子どもらへのいい方とはちがうものだ。

 

「くそっ!そうだな。もっとはやくに手放すべきだった。江戸で法眼か金子殿に託すのがよかったんだろうよ」

 

 副長は、ぶっきらぼうにつづける。

 

 たしかに、松本法眼なら顔がひろい。人となりもよく、知人もしっかりした人ばかりであろう。かれ自身が会津に旅立つまでに、二人をひきとってくれそうな人を紹介なり、養子縁組をアレンジしてくれたにちがいない。

 

 それだけではない。五兵衛新田でも、そこの有力者のや、村の人がぜひとも引き取りたいともちかけてくれた。

 

 おれも含め、かれらを手放したくない。その想いが、こうしてかれらをここまでひっぱってきている。

 

 いずれにしても、会津に置いていくわけにはいかない。はもう間もなく戦場になるからである。

 

 おそらくはこのまま仙台、それから蝦夷へ連れてゆくことになるだろう。

 

 それこそ、史実どおりにである。

 

「できるだけ側において、護るしかないだろうな」

「とはいえ、とくに鉄は怖いものしらずの上に無鉄砲なところがあるからな」

 

 蟻通がいうと、中島が苦笑とともにつづける。

 

「なにかあったのか?」

 

 副長が尋ねると、二人は同時に肩をすくめた。

 

 どうやら、宇都宮城から会津にいたるまでに、敵軍とニアミスがあったらしい。それをたまたまみつけたのが市村と田村で、もっとよくしらべようと勝手に敵軍に接近し、もうすこしで狙撃されるところだったらしい。

 

 偶然、隊士の数名が小便に林に入ってかれらの駆け去ってゆくうしろ姿をみかけ、あわてて追いかけたらしい。

 

 いやマジ、危なすぎる。

 それ以上に、ことなきをえて誠によかった。

 

 ゾッとしてしまった。

 

 蟻通から事情をきいて眉間に皺をよせたのは、副長だけではない。

 

 島田と俊春、もちろんおれの眉間にも皺がよっている。それから、野村の……

 

 ってあいつ、いつの間にかいなくなってるじゃないか。

 

 ぜったいに風呂にいったんだ。ずいぶんと眠そうだった。腹がいっぱいになり、風呂に入ってからふっかふかの布団で爆睡するつもりにきまっている。

 

 あいつ……

 

 やっぱあいつは、いろんな意味でしぶといし要領がいい。

 たとえ地球が惑星の衝突で木っ端微塵になろうとも、核戦争で人類が滅びようとも、あいつだけは生き残りそうだ。

 

「無論、おれと登とで叱った。だが、堪えているかどうか」

「おそらくは、堪えておらぬだろうよ」

 

 蟻通と中島は、再度同時に肩をすくめる。

 

「おれが叱ったとて、どこ吹く風だからな」

 

 副長が苦笑する。

 

「おれからも、っていいたいところだが……

「承知いたしました。わたしが申しましょう」

「頼む、ぽち。おまえの申すことの方が、あいつらは素直にきくだろう」

 

 副長がみなまでいわずとも、俊春は承知している。頭を軽く下げつつ、了承する。

 

 たしかに、副長が怒鳴り散らすよりも、俊春がおだやかに諭すほうがよほど効果がありそうである。

を掻きながら

を掻きながら、永倉が深い溜め息を吐いた。

 

「問題は、誰かが短刀を松原へ与えたってところだよなァ。あの松原が恨みを買っているとは思えねえし、善意で差し入れたんだろうが」

 

 それを聞くと、土方は腕を組んだまま小さく首を横に振る。すると視線が土方へ集まった。

 

 

「松原君の不義を、俺に投げ文で密告して来た奴が隊に居る。筆跡からすると幹部隊士では無さそうだが……」

 

 その発言に、武田は僅かに口角を上げる。偶然にもそれを斎藤が目の端で捉えていた。

 重い息を吐くと、近藤は伏せていた顔を上げる。

 

「とは言え、不義の末の切腹未遂とはこれまた体裁が良くないな。止むを得んが、松原君には正式に組長を降りて貰うしかない」

 

 その言葉に異を唱えるものは誰も居なかった。傷の経過次第では隊務すらこなせないというのが医師の見解だった。

 

 経過を黙って聞いていた沖田がスッと手を上げる。

 

「難しいことはお任せします。取り敢えず、私は松原さんに会って来ようと思います」

 

 そう言いながら腰を浮かす沖田へ、土方が声を掛けた。

 

「それは構わねえ。……ああ、そうだ。一番組に松原君と仲が良かった隊士が居ただろう。そいつらも連れて行け。もしかしたら何か話すかも知れん」

 

 沖田の脳裏には桜司郎、馬越、山野の顔が浮かんだ。だが、沖田は松原の謹慎の件すら彼らには黙っていた。傷付き、動揺するのが目に見えて分かっていたからだ。

 

「それは……」

 

「そうだな、それが良い。総司、そうしてくれるか」

 

 沖田は渋い表情をしていたが、敬愛する近藤にそう言われれば頷くしかない。

 

 分かりました、と副長室を出ると一番組の部屋へ向かった。 沖田は暗い表情で部屋の前に立つと、少しの間佇んでいた。やがて顔を上げると、桜司郎らを呼び出す。

 

 その様子がおかしいことを察した三人は顔を見合わせると黙ってその後をついて行った。沖田は松原が眠る部屋では無く、西本願寺の境内へ誘う。

 

 

「……落ち着いて聞いてください。松原さんが自害未遂をしました」

 

 沖田の声に、しんと辺りが静まり返った。ひゅ、と誰かの喉が鳴る。みるみるうちに三人の目が見開かれた。

 桜司郎は言葉を失ったかのように、口をぱくぱくとさせる。そして何とか言葉を絞り出した。

 

「ど、どういうこと……ですか」

 

 沖田は目を伏せると、謹慎から自害に至るまでの経緯を伝える。

 それを聞いた山野と馬越は傷付いたような表情を浮かべた。

 

「お、俺……そんなこと知りませんでした。忠さんは、一言も言ってくれなかった……」

 

「私も……。元気が無いとは思ってましたが……。まさか、そんな……」

 

 

 案の定な反応を見て、沖田は胸を痛める。仲の良い者の苦しむ姿を見に行けというのは酷なのでは無いかと思い始めた。

 

「無理にとは言いませんが……。見舞いに行ってやって下さい。貴方達が行けば、多少は気も良くなるでしょう」

 

 沖田の言葉に、山野と馬越は直ぐに頷く。だが、桜司郎だけは現実を受け入れられずに視線を揺らした。行こうぜと山野がその腕を掴むが、首を横に振る。

 

 その心中では妻子に会いに行くように促した自分のせいかもしれないという自責の念と、どうして嘘を吐いたのかという失望の念が渦巻いた。

 

「……行か、ない」

 

 桜司郎はか細い声で拒否をした。それを諌めるように山野が掴む腕に少し力を入れる。

 

「桜司郎」

 

「行かない、行かないッ……。安全期計算 会いたくないの、二人で行ってきて……!」

 

 桜司郎は手を振りほどくと門へ向かって駆け出した。山野と馬越がその後を追いかけようとするが、沖田はそれを制する。そして二人は松原の元へ行くように言うと、桜司郎の背中を追いかけた。

 

 

 先程までは爽やかに晴れていた空に、暗い雨雲がかかり始めていた。

桜司郎は盃の水

桜司郎は盃の水面に山南の姿を見る。

 

沖田の心配をし、藤堂を案じて文をまめに送り、自身の手習いの面倒を見てくれた。

総長という過大な役職に悩みながらも、必死に隊で生きようとしていた。

 

何が彼の中で起きているのかは分からないが、去皺紋 桜司郎にとっての山南は、優しく暖かい人間性を持った上司だった。

 

 

「優しくて聡明、か。

確かにそうだな……」

 

土方の脳裏には、葛山を切腹させた時に"貴方が心配です"と言った山南の声が浮かぶ。

 

山南はいつでも非難ではなく、心配をしていた。それに気付かないうちに甘えていた自覚はある。

山南の優しさが心地良かった。

 

今回も、自分の心の悲鳴を察して隊務へ復帰しようとしてくれたのだと思っていた。

 

 

土方は盃を一気に傾ける。大きく息を吐いて、口の中にまとわりつくような不快な酒の臭いを打ち消した。

 

「だけどな、山南は俺のことを裏切ったんだよ」

 

土方はギリ、と歯を噛み締める。苦々しい表情を浮かべた。

 

"私にしか出来ないことが分かった"なんて言っておきながら、結局アイツは…山南は逃げたんだ…」

 

桜司郎は土方の弱音に驚きの表情になる。これを自分が聞いて良いものかと視線を彷徨わせた。

 

 

「違うな、俺に対する復讐のつもりなんだ。山南は、どうすれば俺が苦しむか知っていやがる…。アイツの思惑通りだ、苦しくて仕方ねェ」

 

土方は苦悩の表情で頭を抱える。

人間というものは、追い詰められた時に こうと決めると、それしか見えなくなるという。まさに土方はそれに陥っていた。

 

常に威厳を纏い、鬼の副長と呼ばれている土方も人の子なのだ。むしろ、この姿こそが本当の土方なのかもしれない。

 

そう思うと、土方に対する恐れが消えていく。そして彼が吐いた復讐という言葉に対して引っ掛かりを覚えた。

 

「副長、私の考えを申し上げても…?」

 

「何だ。言ってみろ」

 

土方が求めているのは同意であり、意見や答えではない。そう分かっているが敢えて桜司郎は発言を選ぶ。

 

「復讐…では無いと、思います…」

 

桜司郎はポツリと呟いた。土方は頭を抱えたまま、声の主を睨む。

 

「…復讐をするとしたら、土方副長が一番大切にしていた物を壊そうとするじゃないですか。副長の大切な物は、この新撰組でしょう」

 

例え山南が本気で土方を憎んだとすれば、その時は新撰組のことも見限るだろう。聡明な山南であれば、どうすれば隊内を崩すことが出来るのか理解している筈だ。

 

だが、それをしなかったということは、少なくとも土方に対する恨みの感情はないことを指す。

 

それを聞いた土方はハッと息を呑み、顔を上げた。そしてみるみる泣き出しそうな位に顔を歪める。「むしろ、山南総長は命を賭けてでも伝えたいこと、守りたいものがあったのでは無いでしょうか…」

 

「うるせえ…、うるせえうるせえッ!お前に、お前なんかに…俺たちの何が分かるッ!」土方はそう叫ぶと、盃を壁に叩き付けた。だが桜司郎は怯むことなく真っ直ぐに土方を見る。

 

土方が答えを求めて苦悩を吐き出した訳ではないということは、分かっていた。それでも今、少しでも凝り固まった感情を解しておかなければ、いざ対面した時に取り返しのつかない事になるかもしれない。

 

桜司郎はそう考えていた。「…分かりませんよ。私に分かる訳が無いじゃないですか。副長の方が、山南先生の事をご存知でしょうに」

式 と表 に示すサンプ

  と表 に示すサンプルのモーメントを使用して、含まれる風を計算します。

リスク回避係数 (表を参照) によって提案された

エクイティ プレミアム パズルでは、非常に高いレベルのリスク回避が暗示されています。

  列目 ( ) は算術超過株式リターンを表し、次の式で表されます。

 左側の平均対数超過リターンに対数超過リターンの分散の を加えたもの

推測。平均対数超過リターンは、富途信託  の列  と列 の差であり、その分散は

補正は、表 の列 [対数超過リターンの標準偏差 で行うことができます。

計算されます。表の列  は、セクショの対数ランダム割引を表します。

因子に含まれる標準偏差の下限。この下限は、で割った値に等しくなります。

これは、このパラメーターの単位が年率であることを示しています。ほとんどの場合

国では、下限は年率 30% を超えます。これは予想外に高い値であり、私は

章ですでに説明しました。

は、リスク回避の他の  つの計算を示しています。最初の方法は共有します

重量プレミアム [ の左部分] ​​を消費共分散 で割り、内部

表の 列目に示されているように、相対リスク回避係数  が含まれます。この係数で肯定的な国 (ほとんどの国) は非常に高い値を持っています。

国別に見ると、消費の共分散は負です。

番目の方法は、株式のリターンと消費の間の相関関係を意図的に無視し、

相対ボラティリティの使用任意の資産 と消費の間の共分散を として記録します。

資産の超過リターンと消費の相関係数です。サンプルログ超過リターン

および消費の伸びは、表の列  に記載されています。総在庫リターンと消費増分の間

(の相関係数は小さく、 に設定すると、

資産と消費の共分散は  です。列  はリスク回避を表します

イービル係数、つまり、株式プレミアムの算術平均を  で割ったもの。同様に、は

に列 の相関係数を掛けます。 と同様に、ほとんどの場合

国の場合、) 係数は非常に高い正の値を持ち、株式プレミアムが

価格パズルのもう  つの理由は、株価の上昇だけでなく、消費の伸びが横ばいであることです。

消費の伸びとの相関。時系列から株式リターンの  番目の瞬間を計算しましたが、次のこともできます。

株式配当から同じ株式リターンを計算します。この伝統的な方法は、

によって提案された、株式を消費者として扱うモデルに

料金請求。この仮定の下で、消費の伸びに自己相関がゼロである場合、在庫の棚ぼたは

収益は消費の予想外の伸びと等しくなり、株式のリターンと消費の伸びが

標準偏差は同じで、相関係数は  です。この方法で計算されたリスク回避度

悪係数は、表 と同じ次数です。メーラと

 は、消費の継続的な成長、株式リターンのボラティリティの増加を使用しました。

モデルを調整するための相対的なリスク回避  に近い)。他のフェーズ

同じトピックに関する論文では、消費の主張を活用しています

、株式配当と消費の不完全な相関から生じる主張

ここで、は過去の配

ここで、は過去の配当ではなく、将来の配当または暗黙の配当を使用した対数を表します。

配当対価格比率。  がランダム ウォークに従うとします。

 

配当成長率は 期間前にわかっているため、次のようになります。

 

最後に、 期貨交易 が条件付き分散 を持つとします。

 

と条件付き合意

分散 σgx は、時間 で情報が与えられると、条件付きで正規であり、等分散的です。

ストックリターンの定義は次のとおりです。

 

株式リターンの条件付き期待値は、対数正規分布確率変数の条件を使用して取得できます。

 の期待式とマーチンゲール特性が計算されます。

 

最後に、 が小さい場合、とすると、式の右辺は次のようになります。

ほぼ、そして短い時間間隔で、予想外のログストックリターンはほぼ等しくなります

予想外の丸太の株価。結果は次のとおりです。

 

この式はゴードンの成長モデルを修正したもので、株式のリターン期待値 (算術

平均利回り) は、配当利回りの水準に幾何平均の配当成長率を加えたものとして表されます。

株式リターンの分散の半分。各辺から株式リターンの乗の半分を差し引くと

リターンのおおよその条件付き対数正規性を使用し、並べ替えると、配当価格比率のレベルは、幾何平均株式リターンから幾何平均配当成長率を差し引いたものに等しくなります。

長さ:

 

これは、セクション  の最後にある  の計算と完全に一致しています。

過去の平均配当価格比率対過去の幾何平均利回りおよび配当成長率

関連する。

ゴードン成長モデルでは、配当価格比率は時間の経過とともに一定であり、

したがって、株式リターンの分散は、配当成長の分散に等しくなります。この仮定の下で、西洋は

Geer モデルの幾何平均の実現は、算術平均の実現と同等になります。

配当の伸びは同じ分散を持つため、それらの幾何平均と算術平均は次のようになります。

同じ。しかし、データでは配当価格比率が時間とともに変化し、

株のリターンは配当成長率よりも不安定になるため、幾何学的実現と算術

実装は異なります。ここでの分析は、ジオメトリの実装が正しいことを示しています。ドリフトを伴う定常状態の評価モデルは、長期的な株式リターン予測回帰の魅力的な候補です

代替案。そのような平均回帰が存在する場合、回帰は平均をキャプチャします

バリュエーションの値の回帰、ただし、予測者は無条件で推定する必要があります

平均すると、リターンが変動しやすいため、これは困難な場合があります。モード

 現在の配当価格比率のみを入力する必要があり、配当成長の条件は両方とも

値とリターンの条件付き分散。キャンベルとトンプソン  は、これでそれを示しました

この方法の変種は、米国の株価指数のリターンを予測するのに適していますが、ウェルチと

は、標準リターン回帰の標本外の結果が悪いことを発見しました

落としてしまえば住

落としてしまえば住民が迷惑を被る、橋は切れない。ならばそこを通さないように守る部隊が必要になった。人数も千は必要だろう。何をどう考えても数が足りない、ならば何かを捨ててでも充足させるしかなかった。

 

「張遼、長社から新汲へ騎兵団ならばどれだけで到達可能だ」

 

 距離にして凡そ六十キロ、ただし勢力園内であり街道も利用可能。

 

「一日だな」

 

「朝から晩までで一日か、

 それともお前の腹具合次第か?」

 

 険しい表情になり張遼を詰問する。經痛 一日などと幅のある回答では許されない場面での態度に怒りでも孕んでいるかのように迫る。

 

「日の出から南中するまでで!」

 

「では逆に日没からならば日の出までには到達可能だな」

 

 どちらかといえば余裕がある、暗くなっては速度が鈍るが出来ないことはない。はっきりと頷いてやる。北瑠も黙っている、つまりは可能だ。「荀悦殿、潁川各城から、十人に二人の割合で郷土守備兵を潁陰へ送らせて貰いたい。そうすれば二千の守備兵が捻出できる、潁陰の兵を長社へと増援する」

 

「民を救わんがために立ち、そのせいで民を危険に向かわせるおつもりでしょうか?」

 

 互いを真っすぐに見詰める。董卓軍を追い出して自分達で土地を治めている、誰かに頼りっぱなしで良いはずがない。だからと話が違うと言うなともなりはしない。

 

「自分たちの土地を守ろと言うのに、役目を誰かに任せきるなど笑い話にもならん。決断をしてもらおう、そうすれば私が必ず勝たせてやる」

 

 何の保証もあったものではない。この場にあって荀悦が「考えておく」などと切り返せば戦略は瓦解してしまう。それは即ち荀氏がまた避難しなければなない事態に陥るのと同義だ。だが逃げて居れば安全は担保されるかもしれない。

 

 数秒の沈黙が長く感じられた。多くの注目を集める、どちらになろうとも荀氏は荀悦に従うだろう。だが荀彧だけは袂を分かつことになる。

 

「よろしい、そうでなければ貴方を信じた価値がない! 我等一党は島将軍の指揮に従いましょう」

 

 荀悦を先頭に荀氏一党が一斉に礼をする。島介は立ち上がると返礼をした。

 

「序列を定める。後方司令官に荀悦を据え、潁川全域の統率を預ける。黒騎兵団は張遼、副将は北瑠。長社には正規兵のうち三千を向かわせ、二千は陳葦、辛批、杜襲、趙厳らに五百ずつ率いさせ新汲の山林へと伏せさせておく。残りは長社で華雄と正面戦闘を行うぞ!」 虎牢関以来の大一番が、まさにいまから始まろうとしていた。倍する敵といかにして戦うのか、勝機はあるのか。不安が渦巻く皆を率い、島介は西の空を見詰めるのであった。

 

 

 陳城から長平城へと移り、一旦そこで止まった胡軫。東西を渡河するには船が必要で、南回りならば一カ所だけ橋があった。いずれにせよ長平城は西と南が河で平城の割には防衛に適している。

 

 城主の椅子にどかっと腰を下ろして、長吏に報告をさせた。

 

「潁川軍でありますが、どうやら全軍で長社方面の華雄殿にあたるつもりのようで、騎兵二千、歩兵五千程が向かっているようです」

 

「そうか。確かに全軍であろうな、華雄の軍だけでは厳しかろう、王方の水軍は長社の側に上陸させ、共同して戦わせるよう命令しておけ」

 

 本隊も一万ではあるが、主力が長社へと行ってしまってるならば相手が居ないので安全だとの目論見。元より潁川、陳と進軍してきてろくな抵抗にあわなかったので、胡軫も驕っている部分があった。

 

「本隊を支援させなくてよろしいのですか?」

何かを仕掛ける為の

 何かを仕掛ける為の陽動というのはわかるが、何をするつもりだ。奥では呂軍師の隊が側面を窺う動きをしているな。魏の別動隊が脇を守っているが、双方精彩を欠くような動き。長いこと対陣していたから、そう感じる奴は恐らく戦で負けるやつらだ。まあ、俺の幕にもそういう参軍が居ないとは言い切れんのが現実ではあるんだがね。

 

 黙って戦闘を眺めること半日、いよいよ太陽が落ちていく。目立った動きは一切無し、それでも腕組をしてじっと見詰めるのみだ。夜襲……だろうな?

 

「島大将軍、お休みになられては?」

 

 隣の幕から参軍らがやって来て、


もう寝るようにと言上してきた。家長講座 ここに居たってやることはないんだから適切なんだよなそれは。

 

「そうだな、もう少ししたら休む。お前らももういいぞ」

 

 上官が居るからお先にと言いづらいだろうから、こちらから寝るようにと一言添えてやる。職場での上下、儒教面でのこともあり現代日本よりもそこは厳しい。

 

 ちらほらと赤いものが揺らめいているのが視界に入った。

 

「火の手が上がったな」

 

 ようやく動きをみせたか。だがあれではすぐに鎮火するだろうな。案の定燃え広がることは無く、火は直ぐに消し止められてしまったようだった。それでも夜襲を仕掛けたのは評価してやるべきではあるか。

 

 無言で幕を後にして寝所に入ることにした。数日は黙って見守る位の度量は必要だろうさ。

「基本として赤の旗指物は左所へ、それ以外は右所へ振り分けます」

 

「ふむ、応用としては?」

 

 簡単な理由での指示は推奨されるべきだ、例外がある場合についても聞いておくとしよう。

 

「顔の識別が出来ない者は赤旗でも右所へ回します。古参の親衛隊員が複数で幕の出入り口に勤務するようにしてありますので、誰かしら顔を知っているようにしてあります」

 

「旗揚げの時からのやつらが数十居るからな、そいつらならば今まで大体どこかで顔をあわせているわけか。人員の固定の良い部分とも言えるし、時に弊害を生むこともある。今回は良い部分が出たとしておこう」

 

 アナログな方法ではあるが、顔見知りが基本の親衛隊だ、赤い旗を持つ奴らはそういう背景があるからな。さて、観戦をするか。

 

 

 蜀軍は正面からじりじりと歩みを進めている、魏軍はそれをガッチリと受け止めるだけ。双方被害らしいもは殆ど無い、けが人は出ても死人は皆無という意味だが。本気で攻めるつもりは無い、取り敢えずはそう見えている。

「決戦は明日だ、俺は早めに休むとしよう。警備は他の奴に任せて、お前も自由にしていいぞ」

 

 振り向かずにそう言いつけるも、こいつは絶対に今笑っているに違いないと確信できた。遠回しの、半ば命令のような自由裁量の仕事に気づいている陸司馬、後で聞いたらやはり深夜まで起きて執務をしていたそうだ。全く、どいつもこいつも真面目だなと思うよ。

 

 

 遠くの平地で蜀軍が前進を始めるのが見えた、全面的にではないのが特徴と言えば特徴的だ。

 

「さて、始まったな」

 

 そう呟く。当然、動きがあったと伝令が駆け込んくるはずだが、一人としてここにまで貫通はしてこない。まあ定時報告や状況報告と変わらんからな。

 

「して陸司馬、伝令所の方はどうだ」

 

「はっ、現在左右二カ所で機能させております。左所を副幕として参軍の半数を詰めさせております」

 

 指揮下には無いが、参軍と比べれば陸司馬の方が遥かに高官だ、そういった素振りは殆ど見せないが、実はこいつは官職を上から並べて数えた方が早い。それもいわゆる高官、二千石以上を並べた時、そう限定しても上からの方が早い位に上位に居る。

 

「右所は?」

 

「同じく半数の参軍を詰めさせております」

 

「正副の違いはなんだ」

 

 そこにこいつの経験と才能が見えるはずだ、或いは適性とでもいうのかもしれんが。

 

「右所には首座に着飾らせた親衛隊の伯長を座らせてあります」

 沖田は

 沖田は、その高い背と、広い肩幅に細面の顔立ちの対比で、大分着痩せして見せているようだが、

 鍛えられた彼の逞しい身体は、こうして着流すと、襟の合間の分厚い胸筋や、歩くたびに覗く逞しい脹脛までは隠せない。

 

 (倒れそう、私)

 

 

 「冬乃ちゃん・・?」

 

 「え、あ、はい!」

 「動き止まってるよ」

 藤堂が何か気づくものがあったのか、

   苦笑しながら覗き込んできて、

 冬乃は大慌てで顔を上げた。

 

 「あのっ、兒童故事書 お二方もお夜食いかがですか?」

 

 「いいね」

 「有難い」

 冬乃の前で、沖田と斎藤が答える。

 

 改めて冬乃は、沖田の顔を見上げた。

 

 

 (逢えた・・)

 

 同時に、ここに至るまでの切望感や、先刻の出来事が、冬乃の胸内を駆け巡り。

 ほっとする想いに強く押される冬乃に、

 「どうしたの」

 沖田が微笑んで。

 

 「そんな泣き出しそうな顔して」

 

 「え」

 自分は一瞬にそんな顔をしていたのだろうか。

 冬乃は急いで首を振った。

 「よろしければ、おむすび冷めてしまう前に、・・」

 ごまかすように、皆を見回して促してみせる。

 

 「そうだ!急ごう!」

 原田が真っ先に声を挙げて、なんと駆け出した。

 (ええ?!)

 あっという間に遠ざかる原田の背を冬乃はぽかんと眺めた。

 

 「ぶっ、原田さんだけ急いでも意味ないのに」

 藤堂と沖田がほぼ同時に噴き出す。

 

 「追いかけましょう・・」

 冬乃は呟いた。こうなっては、原田の情熱を無駄にもできまい。

 盆には四角皿を被せて上から押さえているから、走ったとて、おむすびが飛んでいくこともないだろう。

 冬乃は、脚が絡まないよう、片手で着物の裾を前もってくつろげた。

 冬乃の掛け声に、というより冬乃の行動に、沖田達が驚いて見やる。

 

 「では」

 「え、って冬乃ちゃん?!」

 そのまま原田を追って駆け出していく冬乃に、男達が慌てて追いかけ出した。

 

 結局、皆して屯所内から八木邸内を疾走して横断し。

 途中すれ違った隊士たちに、ぎょっとされたものの、無事に八木家の離れまで各々辿りつく頃、

 先に着いていた原田が振り返り、疾走してくる冬乃達を目にして大笑いしたところへ、永倉が障子を開けた。

 

 「おいおい何事だ?」

 「おう、ただいま新八っちゃん!」

 原田が障子のほうを振り返って、出てきた永倉に片手を上げつつ、まだ笑っている。

 「冬乃ちゃん、健脚だね~!」 藤堂の感嘆した声が、原田の笑い声に交じった。

 「たいしたものだ、その着物でそれだけ早く走るとは」

 無口の斎藤にまで褒められて、冬乃は息をきらしながら嬉しくなって微笑んだ。

 冬乃の足腰の強さは勿論、長きにわたる剣の稽古のたまものである。

 

 「なんだおめえら、やかましい」

 帰っていたらしく土方が顔を出した。その後ろから近藤と山南も覗く。

 「おかえりなさい近藤先生、山南さん、土方さん」

 沖田がそれぞれに声をかけた。

 「おう、ただいま。しかし、どうしたんだ皆」

 「おむすび、冷めないうちにお持ちしたんです」

 近藤の問いかけに、冬乃がにっこりと答えた。

 

 

 

 

 狭い部屋に、皆で輪になって座りながら、夜食を囲む。まだここにいない島田と井上のぶんは取り分けてある。

 

 輪の外でお茶を用意してから立ち上がった冬乃に、

 「冬乃ちゃん、ここ座って!」

 藤堂が何故か、藤堂と沖田の間を叩いて声をかけてきた。

 

 まさか藤堂には、冬乃の沖田への恋慕が、すでにお見通しなのだろうか。

 おもわず頬を紅潮させてしまいながらも冬乃は、ありがたく藤堂と沖田の間に滑り込んだ。

 

 「この握り飯ね、具が入ってるんだよ!」

 「そうそう!」

 藤堂と原田がにこにこと宣伝する。 「具だと?」

 土方が訝しげにおむすびを見やり。

 「お口に合うかわかりませんが、・・よろしければ召し上がってください。おひとり二つずつご用意してます。こちらが梅干し入りで、」

 二つの皿それぞれを差して、冬乃は解説する。

 「こちらのほうが昆布入りです」

 「・・へえ」

 隣で沖田が感心したような声を挙げた。

 「いただきましょう、先生。土方さんも、そんな食わず嫌いな顔してないで」

 「うん、いただこう」

 近藤がにっこりと微笑んで、さっそく梅干しのほうへと手を伸ばした。

 それを皮切りに皆もそれぞれ手を伸ばし。

 

 「毒なんか入ってねえよな」

 皆が手に取ったなかで、土方がじっと冬乃を睨んで訊ねた。

 「入ってませんから・・」

 冬乃がもはや失笑して返す。

 「なら俺が毒見!」

 戯れて原田が真っ先に口へ放り込んだ。

 もぐもぐと数回、

 途端。

 「うめーーーーー!!!」

 叫んだ。

 

 「おお」

 近藤がそれを受けて、続けて手にしたおむすびを食して。

 「本当だ、すごく美味いよ」

 おまえも食べろ、と土方を向いて。

 近藤に促された土方は渋々、手に取った。

 

 皆の視線がおもわず注がれる中、土方が一口食べ。そして二口。