三津の側に崩れるように近付
三津の側に崩れるように近付くとその体に覆いかぶさった。
「女子の顔をこんなんにして…!!」
両手で痛々しい顔を優しく包むと,その頬に大粒の涙を落とした。
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流石に眠りから引き戻されて寝ぼけた声を出した。
「お三津ちゃん分かる?松やで。」
「お松さん?何で?ホンマに?」
三津は半信半疑にうっすら目を開いた。光と共に涙ぐむ幾松の顔が飛び込んできて驚きのあまり口をぱくぱく動かした。
「ホンマは連れ戻したろ思って来てんけど…。こんな痛々しい体よう連れて帰らん…。」
ぐずぐずと泣きながら幾松は三津の寝間着の袖を捲り腕をさすりながら痣を確認した。
「こんなんで帰ったらおじちゃんとおばちゃん倒れてまうかも…。」
三津はいつもの様にへらっと笑って少し顔を歪めた。
「どこか痛むん?」
幾松の細くてしなやかな指が三津の頭を撫でた。
だけど三津は大丈夫とまた笑った。
大丈夫だから泣かないでと幾松の頬に手を伸ばした。
「もう少ししたら先生とおユキさんが来ると思うよ。」
「山南さんがお松さん入れてくれたんですか?後で土方さんに怒られちゃいますよ……。」
枕元に腰を下ろした山南を三津は心配そうに見上げた。
「大丈夫だよ。」
そう言って笑ってくれたけど大丈夫な訳がないのは分かっている。三津の眉尻は垂れ下がった。
「山南さん,先生いらっしゃいましたよ。」
隊士が遠慮がちに障子を開けて顔を覗かせた。
「おはようございます。具合はどうやろ?どこか痛むとこ増えたりしてへんかな?
おや,来客中でしたか。」
幾松と目があった先生は会釈をし,幾松も頭を下げてそれに応えた。
「お店のお客さんなんです。山南さんが入れてくれはったんです。」
幾松を怪しんではいないか,ちらっと視線だけを山南に向けるも特に変わった様子はない。
だけどこんなにも堂々と屯所内に幾松が居る事にはヒヤヒヤする。「山南さんは優しい方かも知らんけどそんな人ばっかりちゃうから早くうちに連れて行きたいです。」
ユキは口を尖らせて眉を顰めた。
「ユキさんの所?」
三津はきょとんとして先生とユキ,山南の顔を順番に見回した。
「お三津ちゃんのお世話を男所帯に任せられへんし,動かれへんのをいい事に夜這いなんてされたらたまったもんやありません。」
ユキの言葉が棘を増した。
山南は苦笑いを浮かべるだけで否定は出来なかった。
なるべく早くそう出来るように相談するとだけ約束した。
軽い診察を終えた先生とユキと共に幾松も帰ることにした。その帰り際にもう一度三津ににじり寄った。
「みんな心配してる…。早く顔見て安心したいって。
また酷い目に遭わせてしまったって…。落ち込んではる…。だから早くただいまって言ってあげて…。」
三津の頬に優しく触れて泣きそうな顔で微笑んだ。
その言葉が誰を表してるかはすぐに分かった。
三津も目を潤ませて頷いた。
「……りたい。早く…帰りたい……。」
掠れた声でそう言うのがやっとで,頬に触れる手をそっと掴んで唇を噛み締めた。
「ホンマやったらこの怪我負わせた本人に一言言ってやりたいとこやけど,そんなんして山南さんが八つ当たりされても敵わんから今日の所は帰ります。
お三津ちゃん…次は連れて帰ったるからね…。」
幾松は最後に三津の手を握ってから山南に深々と頭を下げて部屋を後にした。
そして屯所を出てから少し離れた場所で先生とユキを捕まえて三津の状態について詳しく聞き出した。
「山南さん…ありがとうございました…。」
三津が目元を和らげると山南は少し俯いて首を横に振った。
「これぐらいしかしてあげられなくてごめんね。」
そこへ申し訳無さそうに隊士が顔を覗かせた。
「山南副長…あの…。」
その様子に山南は“あぁ来たか…”と苦笑いを浮かべた。
「土方君が呼んでるんだね?すぐ行くよ。」
そう言うって立ち上がった山南の着物の裾を三津が掴んで心配そうな眼差しを向けた。
「大丈夫だよ。」
着物を掴んだ指を優しく解いて山南は部屋を出た。
その直後に土方の怒声が響き渡った。
それを聞いた三津はそっと床から抜けだした。