チラリと隣を見ると、楽しそうに笑う甲斐と目が合った

チラリと隣を見ると、楽しそうに笑う甲斐と目が合った。「何だ、もうバレてるんじゃん」甲斐のその言葉を聞いて、翼は喜びのあまり甲斐に抱きついた。「甲斐くんありがとう!姉ちゃんと付き合ってくれてありがとう!」「甲斐が依織の傍にいてくれるなら、わしも安心だ。依織、良かったな」私の家族はどれだけ甲斐のことが好きなのだろう。見ていて少し恥ずかしくなる。「もう、とりあえず翼、甲斐から離れてよ」「別にハグくらいいいじゃん」Accounting Services、何で私と甲斐が付き合い始めたってわかるの?」「甲斐くん連れて来るって聞いた時点でわかったよ。だって姉ちゃん、母さんに相談してたんでしょ?甲斐くんのことが好きだって」「ちょ……バカ!」慌てて翼の口を手で塞いだけれど、もう遅い。

恐る恐る甲斐を見ると、甲斐は意地悪な笑みを浮かべていた。「へぇ。お前、そんなに俺のこと好きだったんだ」「……調子に乗らないでね」「否定しないの?」「否定は……したくない」実家の玄関に、変に甘い空気が流れ始める。でもそんな空気に気付いたのか、祖父が邪魔するように口を開いた。「お前たち、イチャイチャするならよそでやってくれ。目のやり場に困るだろうが」そう言う祖父も、どこか嬉しそうだった。祖父に背中を押されてリビングに進むと、母がキッチンで料理を作っていた。「甲斐くん、いらっしゃい」「お邪魔します。これ、七瀬の家の近所に最近出来た和菓子屋の大福」「大福?ありがとう!うちの家族皆和菓子好きなのよ。さすが甲斐くんね」「志穂さん、前に大福が好きだって言ってたなと思って」母は初対面のときから甲斐を気に入り、以前から甲斐に自分のことを志穂さんと呼ばせている。オバサンと呼ばれるのも嫌だし、お母さんと呼ばれるのもおかしいから、名前で呼ばせているらしい。母の方が先に名前で呼んでもらっているなんて、今思えば少し悔しい気もする。「今お昼ご飯作ってるから待っててね。確か甲斐くん、好き嫌いないわよね?」「何でも食べれまーす」「私、ちょっと手伝ってくるね」甲斐に一言声をかけ、私は母の元に駆け寄った。「お母さん、手伝うよ。何すればいい?」「そう?じゃあ五人分のパスタの麺茹でてくれる?」「わかった」甲斐はリビングで翼のゲームに付き合わされている。祖父も甲斐と将棋をやりたがっていたが、どうやら翼に先を越されたらしい。好きな人と家族が、一緒に笑っている。その光景は、見ているだけで心が暖かくなるものだ。「甲斐くんと無事付き合うことになったのね」「あ……そうなの。今日は、甲斐がちゃんとうちの家族に交際の報告がしたいって言ってくれて」「わざわざ交際の報告に来てくれるなんて、律儀な子ね。普通は彼女の家族に会うなんて面倒なはずでしょ」パスタの具材を切りながら話す母は、家族の中で唯一浮かれていない様子だ。「確かに、普通なら絶対面倒だよね。私も甲斐の家族に会うことになったら、緊張するだろうしな……」遥希が私の家族に会ってくれたのは、同棲を始めてしばらく経ってからだったと思う。付き合っていた間、私の実家に行くのはあまり気乗りしない様子だった。きっと翼が懐いていなかったのも、気乗りしない理由の一つではあったのだろう。甲斐は私の家族とは既に親しい仲だから、この家に気軽に来れるのかもしれない。でもきっと、それだけではない。そもそも甲斐は恋人の家族に会うことを、面倒だなんて思うような人ではないはずだ。「甲斐くんと付き合えることになって、良かったわね」「……うん、良かった」「でも、彼は絶対に自分を裏切らないなんて思わない方がいいわよ」「え?」母は少し強い口調で、私にそう言った。