ハンベエはそう言って、ドルバスを注意深く見つめた

ハンベエはそう言って、ドルバスを注意深く見つめた。どこかに付け入る隙はないか窺うかのように。その岩のような男ドルバスはチラリと見たが特に気負う事もなく、帯剣を外し、 コキコキと体をほぐし始めた。その辺にいた兵士達が、見物に集まって来た。そして、地面に円を描き、company registration hong kong俵を作った。相撲は何とかの国の国技とか言われているが、どこの国にも似たような格闘技はある。ハンベエ達の行う相撲のルールも極めて簡単、相手を円の外に出すか地面に倒せば勝ち。噛み付き以外は何でも有りの素手の闘いであった。ハンベエはドルバスから目を離さず、『ヨシミツ』と『ヘイアンジョウ・カゲトラ』を外して、そっと地面に置いた。それから、手裏剣も懐から出して、その横に置いた。二人は黙ったまま、円の中央に進んだ。ハンベエは左右の足元を確かめるように見た。それは、立ち会いを右に変わるか、左に変わるか、思案しているかのようであった。ドルバスは小憎らしいほど落ち着いた表情でハンベエを見ている。ハンベエは足元に視線を落として、できるだけドルバスの目を見ないようにして、大きく息をした。両者は膝を落とし、やや前屈みになり、片方の肩を突き出すようにして構えを取った。「始めっ。」頃は良し、と見たのか、ハリスンが開始の声をかけた。ハンベエが大きく動いた。右に飛ぶのか、左に飛ぶのか、・・・だが、ハンベエは大きく後ろに飛んでいた。落ち着いて、ゆっくり前に出てくるドルバスに対し、ハンベエは助走をつけて、凄まじい速度で突進した。ゴンッ、円の中央で岩と岩とがぶつかるような、鈍くて恐ろしい音がした。ハンベエが頭から突っ込んで、自分の頭をドルバスの頭にぶち当てた音である。恐らく、両者とも目から火が出る思いをした事であろう。頭をぶつけると同時に、ハンベエは右肘を固め、上半身を捻りざま、ドルバスの顎に肘打ちをくれた。瞬間、ドルバスの身体が揺らいだように見えた。間髪を入れず、ドルバスの足首目がけてハンベエ渾身の蹴たぐり。ドルバスの巨躯が宙に浮いたように仰のけざまにひっくり返った。見物人達はしばし息を呑み、信じられないものを見たかのように静まり返っていた。ドルバスはひっくり返ったまま、ピクリとも動かない。目を回してしまったようだ。ハンベエも凍り付いたように円の中央に立ち尽くしていた。頭からはいつの間にか血が流れ、恐ろしい顔付きになっていた。その顔付きの恐ろしさは、周りで見ていた見物人が目を合わせた拍子に、くびり殺されるのではないかと首筋に寒気を覚えたほどである。しばしの静寂の後、ようやくハンベエは思い出したかのように、大きく息を吐き出した。それから、地面に置いた物を身に付け直した。頭が痛みでくらくらしていた。どうしても、負けられない闘いであった。もし、背負っているものが無かったら、ハンベエは自分の頭突きの衝撃で失神していただろうと思った。噴出したアドレナリンの量で勝ったような闘いであった。懐から布を出し、頭から流れる血を止めながらハンベエは、「まことに残念ですが、中隊長殿とこの刀は縁が無かったようですな。」と努めて穏やかな口調で言った。口調は穏やかだが、形相は凄いし、闘いの余韻か、殺気が全身からほと走っているし、ちょっと近寄りがたい雰囲気である。 ハリスンはハンベエから目を逸らし、「この役立たずめ。」と忌々しげに倒れたままのドルバスの体を蹴った。ハンベエは不快げに背を向けて自分の宿営に足を向けた。ハンベエがハリスン達のところから、少し離れたところまで歩いて来ると、後ろから血相変えて追いかけて来たルーズがハンベエの腕を掴むなり、「この野郎。この俺に恥掻かせやがって。」と怒鳴った。ハンベエはうるさげにその腕を振り払った。ルーズは、たたらを踏んで尻餅をついてしまった。軽い野郎だ。