落としてしまえば住

落としてしまえば住民が迷惑を被る、橋は切れない。ならばそこを通さないように守る部隊が必要になった。人数も千は必要だろう。何をどう考えても数が足りない、ならば何かを捨ててでも充足させるしかなかった。

 

「張遼、長社から新汲へ騎兵団ならばどれだけで到達可能だ」

 

 距離にして凡そ六十キロ、ただし勢力園内であり街道も利用可能。

 

「一日だな」

 

「朝から晩までで一日か、

 それともお前の腹具合次第か?」

 

 険しい表情になり張遼を詰問する。經痛 一日などと幅のある回答では許されない場面での態度に怒りでも孕んでいるかのように迫る。

 

「日の出から南中するまでで!」

 

「では逆に日没からならば日の出までには到達可能だな」

 

 どちらかといえば余裕がある、暗くなっては速度が鈍るが出来ないことはない。はっきりと頷いてやる。北瑠も黙っている、つまりは可能だ。「荀悦殿、潁川各城から、十人に二人の割合で郷土守備兵を潁陰へ送らせて貰いたい。そうすれば二千の守備兵が捻出できる、潁陰の兵を長社へと増援する」

 

「民を救わんがために立ち、そのせいで民を危険に向かわせるおつもりでしょうか?」

 

 互いを真っすぐに見詰める。董卓軍を追い出して自分達で土地を治めている、誰かに頼りっぱなしで良いはずがない。だからと話が違うと言うなともなりはしない。

 

「自分たちの土地を守ろと言うのに、役目を誰かに任せきるなど笑い話にもならん。決断をしてもらおう、そうすれば私が必ず勝たせてやる」

 

 何の保証もあったものではない。この場にあって荀悦が「考えておく」などと切り返せば戦略は瓦解してしまう。それは即ち荀氏がまた避難しなければなない事態に陥るのと同義だ。だが逃げて居れば安全は担保されるかもしれない。

 

 数秒の沈黙が長く感じられた。多くの注目を集める、どちらになろうとも荀氏は荀悦に従うだろう。だが荀彧だけは袂を分かつことになる。

 

「よろしい、そうでなければ貴方を信じた価値がない! 我等一党は島将軍の指揮に従いましょう」

 

 荀悦を先頭に荀氏一党が一斉に礼をする。島介は立ち上がると返礼をした。

 

「序列を定める。後方司令官に荀悦を据え、潁川全域の統率を預ける。黒騎兵団は張遼、副将は北瑠。長社には正規兵のうち三千を向かわせ、二千は陳葦、辛批、杜襲、趙厳らに五百ずつ率いさせ新汲の山林へと伏せさせておく。残りは長社で華雄と正面戦闘を行うぞ!」 虎牢関以来の大一番が、まさにいまから始まろうとしていた。倍する敵といかにして戦うのか、勝機はあるのか。不安が渦巻く皆を率い、島介は西の空を見詰めるのであった。

 

 

 陳城から長平城へと移り、一旦そこで止まった胡軫。東西を渡河するには船が必要で、南回りならば一カ所だけ橋があった。いずれにせよ長平城は西と南が河で平城の割には防衛に適している。

 

 城主の椅子にどかっと腰を下ろして、長吏に報告をさせた。

 

「潁川軍でありますが、どうやら全軍で長社方面の華雄殿にあたるつもりのようで、騎兵二千、歩兵五千程が向かっているようです」

 

「そうか。確かに全軍であろうな、華雄の軍だけでは厳しかろう、王方の水軍は長社の側に上陸させ、共同して戦わせるよう命令しておけ」

 

 本隊も一万ではあるが、主力が長社へと行ってしまってるならば相手が居ないので安全だとの目論見。元より潁川、陳と進軍してきてろくな抵抗にあわなかったので、胡軫も驕っている部分があった。

 

「本隊を支援させなくてよろしいのですか?」