土方に怒られるだ

土方に怒られるだろう事が目に見えてわかったのだろう。栄太郎は「ご愁傷様」と軽く言うと、紫音の腕を掴んでヒラヒラと手を振った。「え…と…」「なぁに?」何と言えばいいのか、言いよどむ紫音に、栄太郎がしらっと首を傾げる。そこに浮かぶ笑顔に黒いものを感じるのは何故だろう。何の文句も言わせない、と暗に言われてる感じだ。紫音は戸惑いながらもそのまま栄太郎に引かれるままついていく。

栄太郎は、未だに紫音の肩を抱いていた…。

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「原田…どういう事か説明しろ」company formationり、土方を呼んだ原田は、先ほどの辻斬りの死体の横で苦笑いを浮かべる。土方は腕を組み、冷たい視線を突き刺しながら、死体の顔を確認した。土方が原田と呼ぶ時は仕事の時。原田は頭をかきながら答える。「いや、俺もよくわからねぇんすけど…」「わかんねぇならわかってる事だけ話せばいい。お前ぇらは置屋の帰りに、町人の死体を発見したんだな?で、どうしたんだ?」眉間にシワを深く刻んで、土方は死体を仰向けにし、着物や、刀を探る。原田はその様子を見ながら事の流れを一つ一つ話していく。「まだ死体はあったかかったから町人は新八に任せて、俺らは辻斬りを探しに行ったんす」「俺ら?他は誰だ?」「平助と、栄太郎って奴っす」「お前ぇ…町人を巻き込んだのか?」「いや、危ねぇから探しがてら送ってこうと思って。で、小便してたら、先に行くっつって置いてかれて…何か叫び声が聞こえたから慌てて見にいったら、音がいて」額に刺さった小太刀を抜いて、土方は振り向いた。「紫音が?」「そうっす」「あいつならさっきまで屯所にいたぜ?

紫音がやったのか?これは」小太刀を見せて、土方が問う。辻斬りの件は今しがた話したばかりだ。紫音なら、やられる前にやっただろうな。思いながら原田を見ると、うーんと唸っていた。「いや、栄太郎が言うには、別の奴だっつってて、逃げたって言うから、平助が追いかけてったんだけど」「だからこの場にいねぇのか」「俺はてっきり田中がやられたんだと思ったんだけど、栄太郎がこいつが辻斬りの正体だって…」それを聞いて、土方の目が鋭く光った。しばらく考え込むように顎に手をやると、土方はおもむろに立ち上がる。「副長」そこへ山崎がかすかに息をあがらせて土方の傍に近寄る。視線を死体に向けたまま、土方は山崎の報告を待った。「…どうやら当たりです。田中は見廻組の間者ですね。

…その木札の根付が証拠です。内部の様子を見る限りはまだ知らないようですが」「はんっきな臭ぇ奴らだぜ。辻斬りの正体は、こいつに間違いねぇな」吐き捨てるように言って、土方はニヤリと笑った。間者を入れてるだろう事はわかっていた。ただ、その間者にこんな馬鹿を使ったのが間違いだったぜ。常日頃から上から目線な事が気に入らない土方にとっては、高飛車な鼻を折ってやるいい機会だった…。

「はい?今何て言いました?」聞こえてなかった訳ではない。あまりにも理解出来ないので、聞き直した紫音。そんな紫音に、けだるそうにしながら栄太郎はため息をついた。「基本的に何度も言うのは面倒なんだけど…仕方ないなぁ。だからね、楓の初めてを僕にちょうだい?」「……………」やはり聞き間違いではない。紫音はまさに目を点にさせて栄太郎を見た。